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地上デジタル放送の開始により大型液晶テレビが大いに普及し、HDTVが身近なものとなった。CSデジタル放送においては東経110度衛星においては一部HDTV放送があるものの、そのほとんどはSDTV放送であるため、早期のHDTV化が期待されている。
CSデジタル放送の場合、限られた衛星中継器にどれだけ多くの伝送容量を確保するかが課題である。
より多くの伝送容量を確保できる方式として、ETSI DVB-S.2による伝送方式[1]とH.264 | MPEG4 AVCによる情報源符号化方式を組み合わせる方式が考案されており、米国・EchoSTARや独・Premiereではこの方式によるHDTV衛星放送が開始されている。
H.264 | MPEG4 AVCはすでに地上デジタル放送のワンセグ等に活用されているが、HDTV放送に本格的に利用した事例は我が国では少なく、次世代のCSデジタル放送に使用するにあたっては、HDTV画像の評価を含めた実証が必要であると判断した
なお、DVB-S.2の伝送路評価実験は別稿[ 伝送路評価実験報告 ]により報告する。
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H.264 | MPEG-4 AVCは、MPEG-2 VideoやMPEG-4 Visualに対してさらに効率の高い符号化技術を求める声に応えて新たに規格化された映像圧縮符号化方式である。標準化作業はITU-T(International Telecommunications Union - Telecommunication Standardization Sector:国際電気通信連合 電気通信標準化部門)のVCEG(Video Coding Experts Group:映像符号化専門家グループ) とISO/IEC(International Organization for Standardization:国際標準化機関/International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)のMPEG(Moving Picture Experts Group:動画像符号化専門家グループ)によって2001年12月に組成されたJVT(Joint Video Team:合同映像チーム)において進められた。
2つの呼称は各機関におけるこれまでの映像圧縮符号化技術の勧告もしくは標準化作業を受け継いだものである。H.264は1990年のH.261に始まるITU-Tの映像圧縮符号化技術にかかる勧告を示す。一方、MPEG-4 AVCはISOとIECが合同で設立した委員会JTC1(Joint Technical Committee 1:第1合同技術委員会)において委員会の通称でもあるMPEGの名で標準化された映像圧縮符号化方式を示す。
2003年に第1版が規定された後、Highプロファイル等、画像向上のための各種オプションが翌年2004年にリリースされている。
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| 本画質実験は、現在CSデジタル放送で使用されているMPEG-2映像符号化方式に比べて、より低ビットレートでMPEG-2と同等の画質が確保できると期待されるH.264 | MPEG4 AVCのビットレートと画質の関係を明らかにし、所要ビットレートを確認することを目的とする。 |
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情報通信審議会 情報通信技術分科会 CSデジタル放送高度化委員会は、この要求条件として、次の3種を規定している。
「デジタルHDTVについて、HDTVという特性を考慮し、特に高画質であること」
「デジタルSDTVにおいても、できるだけ高画質を保つこと」
「情報源符号化による画質劣化の時間率ができるだけ小さいこと」
一方、Rec.ITU-R BT.1122-1 [1]においては、たとえば、「Rec.ITU-R BT.710, BT.802, BT1128, BT.1210から選んだ少なくとも4つのシーケンスのうち、75%の画像にてDSCQS(*1)スケールで品質差12%以内であること。残りのシーケンスについても30%以内の品質差であること」と規定している。
当然ながら、これらのテスト画像の選択に大きく左右されることとなるので、Rec.ITU-R BT.500-11[3]における「平均的な画像による総合的な性能:一般的に「クリティカルであるが必要以上にクリティカルではないもの」を同様に適用し、通常の放送番組に現れる画像の中から、例えば、使用するシーケンスの半分は明らかにクリティカルな(圧縮の難しい)画像、残り半分は適度にクリティカルな画像とする。
これはBSデジタル放送の技術的条件を策定するときにも用いられた基準であり、今回の画質評価実験も同様の適用条件を適用する。
(*1) Rec. ITU-R BT.500-11で定める主観評価法、二重刺激連続品質尺度と訳される。
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H.264 | MPEG4 AVCは、実時間処理の放送利用を前提としているため、今回の画質評価実験もリアルタイム(ハードウエア)CODECあるいはエンコーダーを利用することが望ましい。
しかしながら、実在するリアルタイムCODECは市場に出回ったばかりの段階であり、さらにその性能は未だ画質改善の途上にあると考えられる。
そのため、H.264 | MPEG4 AVCの情報源符号化における方式としての画質を確認するために非リアルタイムのソフトウエアCODECを利用することとした。
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| 映像素材としてHDTVコンポーネント信号、RecITU-R BT.709-5 1920×1080 |
/59.94iを用いて、前述のとおり非リアルタイムによるソフトウエアCODEC(株式会社KDDI研究所)を用いた。
その他の符号化条件は下記のとおりであり、HD-D5 VTRに収録・録画した評価画像を再生することでHDTV画像評価試験を行った。
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■表-1 HDTV符号化実験条件
| 映像素材 |
HDTVコンポーネント信号(Rec. ITU-R BT.709-5 1920×1080 / 59.94i)
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| 映像コーデック |
株式会社KDDI研究所 非リアルタイムソフトウエアCODEC |
| 符号化方式 |
H.264 | MPEG-4 AVC
HP@L4
GOP長:15フレーム(アダプティブ)
ピクチャ構造:IBP可変、Frameピクチャ
プリフィルタ使用せず
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| ビットレート |
7, 9, 13, 17Mbps |
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| 画質評価の条件を表-1に示す。画質評価法には二重刺激連続品質尺度(DSCQS)法を用い、ITU-R勧告に沿って基準画像と符号化画像を一対として、それぞれ2回ずつ提示する。Rec. ITU-R BT.500-11では、評価テストは非専門家(日常業務としてTV映像の画質に関わる業務に従事しておらず、評価実験の経験の無い者)15名以上で行うことと規定している。視距離はRec. ITU-R BT.710-4[2]で3H(H:画面高)と規定されている。使用したテスト画像を表2に示す。テスト画像の選定にあたっては、予備実験として事前に複数の候補画像を符号化して観視した。 |
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■表-2 HDTV画質評価実験条件
| 評価法 |
二重刺激連続品質尺度(DSCQS)法(Rec. ITU-R BT.500-11) |
| 観視条件 |
Rec. ITU-R BT.500-11, BT.710-4 |
| ディスプレイ |
スタジオ用32型CRT(SONY BVM-D32E1) |
| 視距離 |
3H(H: 画面高)Rec. ITU-R BT.710-4 |
| テスト画像 |
10種(各10秒) |
| 評価項目 |
ビットレート4種類(7Mbps, 9Mbps, 13Mbps, 17Mbps)、原画像 |
| 評価セッション |
2セッション(1セッション当たり30回)各セッションの冒頭5回は、他と重複するダミー
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| 基準画像のフォーマット |
HDTVコンポーネント信号(Rec. ITU-R BT.709-5 1920×1080 / 59.94i)
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| 評定者 |
非専門家24名 |
| 実施場所 |
NHK放送技術研究所 |
| 実施月日 |
2006年3月9日 |
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■表-3 HDTVテスト画像
| No |
Sequence Name |
Sequence Name Source |
| 1 |
European Market |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.7) |
| 2 |
Harbor Scene |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.12) |
| 3 |
Whale Show※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.16) |
| 4 |
Opening Ceremony※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.19) |
| 5 |
Soccer Action※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.20) |
| 6 |
Green Leaves※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.23) |
| 7 |
Japanese room※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.25) |
| 8 |
Crowded Crosswalk |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.30) |
| 9 |
Bronze with credits※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.43) |
| 10 |
Chromakey(Sprinkling)※ |
ITU-R BT.1210-3[5] (1125/60 No.46) |
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※BSデジタル放送の技術的条件策定時の画質評価で使用された素材 |
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| 画質評価実験で得られたDSCQS値をグラフ化したものを図2に示す。 |
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| 得られたDSCQS値を評価するために、ITU-Rの要求条件への適合性を判断すると、表-4のとおりである。
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■表-4 ITU-Rの要求条件への適合性
| ビットレート |
評価画像の3/4以上で原画からDSCQS 12%以内の劣化 |
全ての画像で原画からDSCQS 30%以内の劣化 |
| 7Mbps |
− |
◎ |
| 9Mbps |
− |
◎ |
| 13Mbps |
○ |
◎ |
| 17Mbps |
◎ |
◎ |
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◎ 要求条件に対して余裕をもって適合
○ 要求条件に対して概ね適合
− 要求条件に対して適合しないが改善が期待される
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この結果は現時点のCODECの性能による画質の評価結果であり、MPEG-2の事例でもわかるように、今後の最適化等により画質改善が図られる可能性は高いことに留意する必要がある。
したがって、要求条件に適合するのは17Mbpsのビットレートであるが、13Mbpsのビットレードであっても近い将来、ITU-Rの要求条件に適合する可能性が高いであろう。
BSデジタルのMPEG-2のHDTV画質評価試験において要求条件に適合するのが22Mbpsであったことと比較すると、17Mbpsでは約23%、13Mbpsでは約40%のビットレート軽減となり、H.264 | MPEG4 AVCの高い情報源符号化性能を示すことができたと考えられる。
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H.264 | MPEG4 AVCについて、MPEG-2よりも23%〜40%のビットレート軽減を実現できることを示すことができた。DVB-S.2と組み合わせることにより、実に50%以上の容量を増大させることができると考えられる。
従前は27MHzの衛星中継器にHDTV 1チャンネルしか伝送できなかったものが、DVB-S.2およびH.264/MPEG4 AVCを組み合わせた方式が放送方式として採用されることで、HDTV 3チャンネルを同一の衛星中継器により伝送できる可能性が高まり、CSデジタル放送におけるHDTV普及に大いに貢献することが考えられる。
なお、本実証は社団法人電波産業会 デジタル放送システム開発部会 同CSデジタル放送高度化作業班のもとに行われた。
得られた画像評価データ・評価結果は情報通信審議会における検討にも大いに寄与し、CSデジタル放送の高度狭帯域伝送方式として現に制度化されつつある。
なお、実証に用いた各種機器・測定装置等の一部には、独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)による平成17年度 通信・放送融合技術開発促進助成を受けている。
最後に、本実証実験を実施するにあたり、総務省、NHK放送技術研究所、株式会社KDDI研究所および社団法人 電波産業会 デジタル放送システム開発部会 同CSデジタル放送高度化作業班 参加各社には、ご指導および多大な協力をいただき、ここに感謝する次第である。
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文献
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| [1] |
Rec. ITU-R BT.1122-1: “User requirements for emission and secondary distribution systems for SDTV, HDTV and hierarchical coding schemes” ,1995 |
| [2] |
Rec. ITU-R BT.710-4: “Subjective assessment methods for image quality in high-definition television”, 1998 |
| [3] |
Rec. ITU-R BT.500-11: “Methodology for the subjective assessment of the quality of television pictures”, 2002 |
| [4] |
Rec. ITU-R BT.1129-2: “Subjective assessment of standard definition digital television (SDTV) systems”, 1998 |
| [5] |
Rec. ITU-R BT.1210-3: “Test material to be used in subjective assessment”, 2004
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| [6] |
馬場俊明,水野勝成,三木豊,”次世代CSデジタル放送 DVB-S2/H.264 | MPEG4 AVC 実証−伝送路評価実験報告−”,信学技報 SANE/SAT2006 2006年12月 (投稿中)
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