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JSATの取り組み
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世界の衛星通信の現状
1.概況
2.国際衛星機構の民営化
3.グローバル衛星通信事業者の登場
4.移動体衛星通信の動向
5.ブロードバンド衛星システムの動向
6.新しい中継方式・通信方式の試み
7.まとめ
 最初に衛星通信の歴史的な経緯を踏まえつつ、その概況を述べる。
衛星通信は古くから国際衛星機構であるインテルサット、インタースプートニクを中心に国際電話やテレビジョン中継などに使われてきた。しかし、1980年代に入るとアメリカでは民間の衛星通信事業者が生まれ、1990年代以降、日本を含めて多くの国で民間の衛星通信事業者が出現し、商用サービスを提供するようになる。その中にはパンナムサットやオライオン、アジアサットなど国際通信を手がけるものもあり、インテルサットに対して非インテルサットあるいは別個衛星(システム)と呼ばれる。インテルサットやインマルサット等の国際衛星機構の民営化は次章で取り上げる。
 1990年代後半に入ると、世界的な通信・放送の自由化の流れやインターネットの急速な普及により、多くの通信衛星の打ち上げが計画され、静止軌道上に他の衛星がもう入り込む余地がないほどになった。同時にIridium計画をはじめとする低軌道衛星(LEO)システムにより世界中どこでも使えるユニバーサルな電話・データ通信システムや、SpacewayをはじめとするKaバンドあるいはそれ以上高い周波数であるQ/Vバンドを利用する高速ブロードバンド衛星サービスの計画が次々と発表された。
 他方、衛星放送の直接受信方式である"DTH: Direct-To-the-Home"は、ヨーロッパのASTRAを典型例として、衛星の急速な需要拡大をもたらし、その結果として衛星の大型化が進み、大出力化・大容量化・長寿命化が実現した。
この時期はインターネットが急速に普及した時期でもあり、日米間・欧米間などの主要な基幹網は海底光ファイバー敷設が進んだ。その影響で、インターネット・バックボーン網の多くが通信衛星から光ファイバー利用にシフトしたものの、逆に光ファイバーが接続(水揚げ)されない周辺国は、むしろ通信衛星がインターネットのバックボーンとして利用されたため、世界的な衛星通信需要は大きく下がらなかった。
 しかし、いわゆるインターネットバブルの影響を受け、特にアメリカにて計画されていた高速ブロードバンド衛星の計画が次々と延期された。同時に、多くの衛星通信事業者において予定していた衛星の打ち上げが後継機、新規問わず、延期・中止することになった。これに対応するかのように、最近は衛星通信事業者の合併・買収が行われ、あるいはグローバルな衛星通信事業者同士の協調提携(アライアンス)が組まれることが多くなっている。
 次章以降、国際衛星機構の民営化、グローバル衛星通信事業者、移動体衛星通信、ブロードバンド衛星システム、新しい中継方式・通信方式をトピックスとして取り上げて、概説する。
衛星通信の普及に大きく貢献したという点で、衛星通信に関する国際機構について述べておく必要がある。
 1960年代後半から1980年代前半の、いわゆる衛星通信の黎明期では、世界的な衛星通信システムの構築を目指した国際衛星機構が一種の事業体として国際間の衛星通信サービスを提供する役割を果たした。特に、1964年に発足した国際電気通信衛星機構はインテルサット(INTELSAT)と呼ばれ、各国が署名当事者として出資することで、これらの加盟国間で同機構が打ち上げる衛星を利用する権利を得る仕組みである。
 しかし、1990年以降、各国で商業衛星通信が打ち上げられ、これらの非インテルサット別個衛星にも国際通信が認められるようになると、競争への対応が迫られることになった。そこで、同機構は民営化を決定し、1998年、オランダにニュー・スカイズ・サテライト(NewSkies Satellite)社を設立して、商業性の高い6機の衛星を先に移行させた。そして、最終的に民営会社であるインテルサット社(略称はIntelsat)を米国および英国に設立し、機構が所有していた資産を移行することで、2001年に民営化を完了した。
 民営会社に資産を移行した後も、同機構は約150カ国が加盟する政府間機関(名称は同じであるが、略称をITSOと改称)として存続している。同機構は、インテルサット社の衛星中継器を引き続き使える契約を結んでいる。そのため、同機構は、主に自力で衛星を打ち上げられない国に対して、衛星通信を用いたユニバーサルサービスやグローバルコネクティビリティを維持する目的を果たす。
 国際海事衛星通信機構(インテルサット)と同様に、この時期、他の国際衛星機構も次々と民営化の動きが見られた。たとえば、移動体通信を提供するインマルサットは英国法人のインマルサット社として1999年に民営化された。さらに、欧州電気通信衛星機構であるユーテルサットはフランス法人のユーテルサット社として2001年に民営化された。
 これらの国際衛星機構が民営化された1999年〜2001年には、非インテルサット別個衛星間においても、衛星通信の需要の高い地域はすでに競争が激化しつつあった。今後、インテルサットやユーテルサットの民営化により、世界的に衛星通信事業者間の競争がさらに激化するものと考えられる。
 他方、現在のところ民営化されていない国際衛星機構としては、アラブ衛星通信機構(アラブサット)とインタースプートニクであり、それぞれアラブ諸国21カ国、旧東側諸国を中心とする24カ国が加盟している。
そもそもグローバルな衛星通信サービスはインテルサットの独壇場であったが、地域的な国際通信を皮切りに非インテルサット衛星に許されると、民間の衛星通信事業者は続々と国際通信を提供するようになった。特に、アメリカのパンアムサット(PanAmSat)社は9機の衛星を太平洋、大西洋、インド洋にそれぞれ配置し、全世界ネットワークを構成している。
 パンアムサットと対比されるのが、ルクセンブルグに本社を置くSES Global社である。同社はもともとヨーロッパ地域を対象にASTRA衛星を用いるDTHによる衛星放送事業者であった。同社は2つの軌道に実に12機の衛星を配置することで、数百チャンネルという衛星放送の多チャンネルを実現した。
 このようなグローバル衛星通信事業者は他の衛星通信事業者を買収して、あるいは他社と合弁で衛星通信事業を拡大する傾向にある。
 例えば、パンナムサットはJSATと合弁でHorizons-1衛星を西経127度の北米上空に打ち上げて、2003年より事業を開始する予定である。
 SES Global社は2001年、アメリカのGE Americom社を買収して、SES Americom社とするとともに、香港のAsiasat、スェーデンのNSAB、ブラジルのEmbratel、スペインのHispasatの各社に次々と出資し、グローバル化を進めている。
ISDN、ADSLあるいはFTTHをはじめとする地上のブロードバンド通信が急速な普及した国では、衛星通信は、むしろ通信需要からDTHという放送需要へのシフトが顕著である。地上との競争が少ないという意味で、移動体衛星通信が再び注目されつつある。
 インマルサットは前述のとおり、民営化された後、続々と新サービスの計画を発表し、事業の拡大に積極的である。しかし、使用周波数が1.6/1.5GHzというLバンドは周波数をブロードバンドに対応するだけ割り当てられる余裕がない。同社の次世代システム"BGAN"(Broadband Global Area Network)では、大型衛星に約300ものスポットビームを搭載し、さらに多値変調方式を併用することで、最大432kbpsのマルチメディア通信サービスを提供する予定である。当初、2004年までに全世界中どこでも利用できると予定されたBGAN計画は、大西洋地域とインド洋地域のみの計画に手直しされ、日本を含むアジア太平洋地域は提供予定地域に含まれていない。
 Iridiumに触発されて計画された数多くの非インマルサットの移動体衛星サービスのうち、"Thuraya"と"ACeS"が2000年から2001年にかけて開始された。どちらもダウンリンクにLバンドを利用して、約1万音声チャンネルを同時に伝送できる携帯移動電話サービスである。
 Thurayaはアラブ首長国連邦に設立された合弁会社が運営するもので、Boeing社のHS-GEMと呼ばれる大型衛星が特徴的であり、中東を中心に、北アフリカ、ヨーロッパ、ロシア、中央アジア等の地域を広域にカバーする。
ACeSはインドネシア、フィリピン、タイの会社による合弁会社による運営で、アジアを中心にサービスを提供している。
 注目を集めているのは航空機の機内からインターネット接続を行う計画である。いくつかの方式が提案されているが、その中でも"Tenzing"はすでにサービスを行っており、キャセイ・パシフィック航空やシンガポール航空を等、十数の航空会社でシステムが導入されている。インマルサットを用いるため、現在は飛行機1機あたり最大4.8kbpsと低速である。そのため、機内からリアルタイムで更新するニュースや、電子メールのやりとりに止まっている。将来、最大64kbpsの双方向インターネットを提供する計画もある。
 Boeing社が提供する"CbB: Connexion by Boeing"は、Kuバンドを利用することで、飛行機内であっても高速のブロードバンド・インターネット接続サービスを提供するものである。現在、大西洋路線でルフトハンザと英国航空の2社が実機によるテスト運用を行っており、2004年から大西洋路線を皮切りに全世界でサービスを提供する予定である。伝送速度は飛行機1機あたり、下りが5〜10Mbps程度、上りが1〜2MbpsとTenjingに比べて遙かに高速になる予定である。
1993年頃から欧米でKaバンドやQ/Vバンドを利用するブロードバンド衛星システムの構想が発表されてきた。これらの衛星システムはTeledesicに代表される低軌道衛星(LEO)を数十以上使って構成するものと、Spacewayに代表される静止軌道衛星(GEO)によるものに大別される。
 アメリカではこれらのブロードバンド衛星システムの計画が次々と発表される中で、1995年から1997年までに30以上の衛星システムの事業申請が出され、1997年に12のシステムに免許を付与し、2000年頃から次々とサービスが開始されるはずであった。ところが、インターネットバブルの崩壊とKaバンド端末の低価格化の進捗が思わしくない等計画通りに事業が進んでいないことにより、一部の事業者を除き、FCCは2000年7月に免許を取り消す事態になった。
現在、計画が遅れているものの、事業化に向けて動いているのは"Spaceway"と"WildBlue"だけのように考えられる。
 前者はHughes社によるもので、世界中に8機程度の静止軌道衛星を配置し、最小で66cmアンテナ径のKaバンド端末により500kbps程度のブロードバンド通信を可能にするものである。まず、2003年にアメリカでサービスが開始される予定である。
 後者は、以前"Ka Star"と呼ばれたもので、Kaバンド端末の開発遅れで資金調達に行き詰まり、計画が中断していた。しかし、2002年末にLiberty Satellite社、Intelsat社およびNRTC社が増資に応えたことから事業が復活した。
 復活した計画は、2003年末に打ち上げ予定のカナダのTelesat Canada社ANIK-F2衛星のKaバンド・トランスポンダーを利用して、約60cmアンテナ径の端末により最大2Mbpsの双方向インターネットサービスを提供する。その後、独自衛星であるWildBlue-1を2004年以降に打ち上げる計画もある。
 他方、ヨーロッパでは"SkyBridge"など、同様の計画がいくつも提案されているが、資金調達難等のためか、計画はほとんど進んでいない。
 Kuバンドを使うシステムもいくつか提案されている。たとえば、Gilat、MicrosoftおよびEchostarによる3社合弁による"Starband"は、アメリカ国内で66cmアンテナ径の家庭用端末により約500kbps程度のインターネット接続を提供する予定であった。ところが、加入者が伸びず頓挫、大幅に縮小せざるをえなくなった。
 同社はサービス開始当初からTelestar衛星のKuバンドの十数本の衛星中継器を契約していた。契約者は4万人という報道発表がされていたが、予定していたほど衛星中継器あたりの利用者を収容できなかったと考えられている。衛星インターネットは旧来から、衛星中継器あたりどれだけ多くの利用者を収容することができるかという課題が残っている。[2]

アジアでは主にKuバンドを使う"iPSTAR"計画が着々と進んでおり、日本を含むアジア、オセアニアの広域エリアを対象に、2004年にサービスが開始される予定である。これはタイのShinSatellite社によるもので、最低75cmアンテナ径により上り2Mbps、下り8Mbpsの双方向マルチメディア通信を実現する。衛星の総伝送容量は実に35〜45Gbpsにもなるという。このサービスを受けられる地球局端末を1,000USドル以下という低価格の目標を掲げて、パートナー・メーカーを中心に開発が進んでいる。

 iPSTARはサービスを各国のパートナー・サービス事業者により提供する。このパートナー・サービス事業者の発表があった国としてはタイ、中国、インド、マレーシア等がある。
ヨーロッパではDVB-RCS技術[3]とKa/Kuの両バンドを利用する衛星ブロードバンドサービスがいくつか提案されたものの、残念ながら計画段階で終わってしまったものが多い。
(ShinSatellite社Webサイトより引用)
従来、衛星通信で広く用いられている中継方式はスルーレピータ方式と呼ばれる方式である。これは、衛星中継器では単に周波数変換を行うというものである。これに対して、周波数あるいは時間スロットごとのスイッチングを行ったり、パケット単位でのルーティングを行ったりする方法あるいは蓄積交換方式も一部商用として用いられるようになってきた。
 周波数あるいは時間スロットごとのスイッチング技術としてはBoeing社が提案しているChannelizerを使った"Channelized Payload"を取り上げる。これは、従来一定であった変換周波数を自在にするもので、任意の周波数にアップリンクされた電波を、任意の周波数にダウンリンクすることが可能になる。これは周波数軸でのスイッチングと考えることができるが、そもそもはDSP技術により時間軸上での処理を周波数軸に変換することで実現させている。このChannelized Payload 技術はThuraya衛星や一部の軍事衛星に用いられている。
 さらに、同社の最新の第4世代技術と呼ばれるこの技術は、軌道上の宇宙空間でも180MHzのクロックで動作する約7万ゲートで構成されるASICが使われており、隔世の感がある。

(Boeing社Webサイトより引用)
 次にESAで開発されEutelsatのHOT BIRD 4および5衛星で実際に使われているのが"Skyplex"と呼ばれるDVB-Sのマルチプレクサである。すなわち、350kbpsから6Mbpsのシングルキャリア(いわゆるSCPC方式)にてアップリンクすると、衛星内でいったん受信され、ベースバンドに変換される。このアップリンクは複数の場所から可能であり、それぞれのベースバンド信号を多重化し、DVB-S形式の33MHz帯域の下り信号として再び衛星から送出される。SCPC方式ではバックオフを取る必要があるため、いわゆるトランスポンダの分割損が生じて、フルパワーで送信することができない。Skyplexであれば、アップリンクがSCPCであっても、ダウンリンクがDVB-Sとなることから、受信アンテナを小さくすることが可能になる。
 VSAT通信方式では、従来高価であったTDM/TDMA方式を標準化して普及させることを目指したDVB-RCSが注目されている。当初、SES社(現在のSES Global社)がヨーロッパの諸企業と合弁で事業化を計画されたが、計画は中断。Gilat社あるいはViasat社などの廉価版VSATと比較してどれだけ端末コストを下げられるのかが課題となっている。
世界の衛星通信の現状を、国際衛星機構の民営化、グローバル衛星通信事業者、移動体衛星通信、ブロードバンド衛星通信システム、新しい中継方式・通信方式という観点で概説した。
文献
[1] (財)KDDIエンジニアリング・アンド・コンサルティング編『衛星通信年報』平成14年度版、2001年
[2] Jun TAKEI, Jun Murai "Satellite Communication in the Internet: It's history and the Technology", The 2003 International Symposium on Applications and the Internet (SAINT-2003), Jan. 2003
[3] ETSI Standard EN 301 790
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